2022-23 / 2023-24 ドイツ出身のヘッドコーチに率いられるも、大きな波を起こせなかった

西宮ストークスで指揮を執っていた
マティアス・フィッシャーがHCに就任
前季限りで天日謙作ヘッドコーチ(HC)が退任し、後任にはドイツ国籍のマティアス・フィッシャーが就任。フィッシャーは前季まで3シーズンにわたって西宮(現神戸)ストークスを率いていたが、プレーオフには進むもチームをB1昇格に導けないでいた。最上の結果は残せていなかったが、それでもクラブはフィッシャーが指揮官として培ってきたヨーロッパのスタイルと、彼が積み重ねてきた日本での3シーズンの経験との融合に期待して、タクトを託した。前季のロスターからエリエット・ドンリー、竹内譲次、合田怜、カイル・ハント、ディージェイ・ニュービル、木下誠、アイラ・ブラウンが残留。アキレス腱断裂で前季を全休した橋本拓哉が復帰する。ペリー・エリス、デイビッド・ドブラス、中村浩睦、青木龍史、ザック・モーア、ジャワラ・ジョゼフが退団した。新加入は前京都ハンナリーズから鈴木達也、3季ぶりの復帰となったショーン・オマラ、そして広島ドラゴンフライズから期限付き移籍で井手拓実を獲得。開幕が近付いた9月に星野零志とアマチュア契約を結んだが、ロスターの変更は最小限にとどまった。2022-23シーズンを迎えるにあたり、新たな指揮官は、こう意気込みを語った。
「まずは絶対に、ディフェンスを強くしたいと思っています。昨シーズンからの課題であるディフェンスを克服して、そこからいい流れでオフェンスに入る。そうして、速い展開を作っていきたい。それにオプションが多彩にあるバスケットボールも、目指すところです。エヴェッサには良いシューターが揃っていて、アウトサイドで技を披露できる選手もいますし、インサイドで活躍できる選手もいる。インサイドゲーム、アウトサイドゲームのどちらも駆使した、バラエティーに富んだバスケットボールをしたいと思っています」
2022-23は開幕前から故障者が相次ぎ
不完全な状態でスタートした
シーズンは開幕前から故障者が相次ぎ、万全の体制でスタートが切れなかった。そんな状態で開幕の2カードは千葉ジェッツ、宇都宮ブレックスと東地区の強豪との対戦。ホームでの宇都宮とのGAME1は終始劣勢ながら、このシーズンから解禁された声だし応援にも背中を押されて、残り1分を切ってから見事な逆転劇を見せたが、トータルでは1勝3敗。スタートで躓いたことが響いてか、開幕月の10月は3勝6敗と負け越し。11月も2勝2敗と、序盤は上手く波をつかめなかった。12月は2度の3連勝に、1度の3連敗と出入りの激しい月だった。フィッシャーHCが開幕前から課題にあげていたディフェンスが機能した試合は確実に勝利するが、そこが崩れるとオフェンス面にも悪影響を及ぼして敗れてしまう。勝利したゲーム、敗れたゲームとも、その傾向が顕著に現れていた。12月28日には前季に続いて、飯尾文哉が特別指定選手として加わることを発表。飯尾は日本大最終学年のこのシーズンに、主将としてチームをベスト4に導き、自身も優秀選手賞を受賞した。
1月はレバンガ北海道をホームに迎え、GAME2は4点ビハインドの終了直前に橋本が3Pシュートを放った際にファウルを受ける。シュートもフリースローも決まって4点を獲得し、オーバータイムに持ち込む。延長も接戦が続いたが、残り0分03秒に、ニュービルがフリースローを2本成功させて勝ち越し。北海道の最後の攻撃をしのぎ切ったところで試合終了のブザーが響いたが、エヴェッサのディフェンスに対してファウルの笛が鳴る。ファウルがゲームクロックが残っているあいだに起こったものか、ビデオ判定に。検証の結果、試合終了が先と判定。劇的な幕切れで、年末からの連勝を5に伸ばした。
5連勝の直後に3連敗、そして3連勝
浮き沈みが激しいシーズン
しかし直後に3連敗、その後に3連勝と浮き沈みが激しい。そんななかで、勝利した1月22日の秋田ノーザンハピネッツ戦でブラウンがB1個人通算4000得点を達成。40歳になったこのシーズンも全試合に出場し、中心選手としての存在感を放っていた。
2~3月は3勝8敗と、黒星が先行。8敗のうち2試合で90失点以上を喫するなど依然、課題であるディフェンスに安定感をもたらせずにいた。4月はリーグ戦で上位にいた川崎ブレイブサンダース、琉球ゴールデンキングス、名古屋ダイヤモンドドルフィンズを次々と撃破して3連勝。チームが持つポテンシャルを示して見せたが、ハント、合田、オマラと主力に故障者が発生したこともあり、この月も6勝7敗と負け越し。4月22日の滋賀レイクス戦に勝利してBリーグホーム通算100勝を達成したが、シーズンの閉幕が近付いても、不安定な状態は改善できないでいた。
シーズン最終節は、ホームでの茨城ロボッツ戦。GAME1は落としたがGAME2は95-81で勝利して、シーズンの最後を勝利で締めくくった。前季の21勝36敗・勝率.368から、27勝33敗・勝率.450と勝ち星、勝率とも向上。しかし年間を通じてチャンピオンシップ(CS)進出争いに絡むことはなく、消化不良のままシーズンを終えてしまった。
シーズン終了後のアワードで
フェアプレー賞を受賞
シーズン終了後のアワードではレギュラーシーズンにおける、アンスポーツマンライクファウル、テクニカルファウル、ディスクォリファイングファウルの総数および、規約・規程違反件数が最も少ないクラブに与えられるフェアプレー賞を受賞。主将としてチームを代表してアワードに出席した竹内は「Bリーグが飛躍的に発展している中で、このような賞を受賞できたのは、大阪エヴェッサがクラブとして正しい方向に進んでいるという証明だと思います。これはクラブとしてとても喜ばしいことであり、個人的にも大変嬉しく思います」とコメントした。フィッシャーHC体制2季目の2023-24
チームの軸を担っていた中心選手が退団する
2023-24シーズンは、引き続きフィッシャーHCが指揮を執った。前季から竹内、鈴木、木下、合田、橋本、そして特別指定選手からプロ契約に移行した飯尾が残留する。退団者はニュービル、ブラウン、ハント、オマラ、ドンリー、井手、星野。替わってショーン・ロング(前北海道)、ともに日本でのプレーが初めてのアンジェロ・カロイアロ、イアン・ハマー、西川貴之(前佐賀バルーナーズ)、多嶋朝飛(前茨城ロボッツ)、土屋アリスター時生(前三遠ネオフェニックス)が新たに加わった。8月26日に一般公開で此花区民一休ホールで行った新体制発表会で、黒木雄太ゼネラルマネージャーは「我々は従来の大阪エヴェッサが掲げる『アップテンポな走るバスケット』のスタイルに加え、フィッシャーHCが志向するヨーロッパ型の『組織的なバスケット』のスタイルを取り入れ、個の力ではなくチームの力で戦うバスケットを追求していきたい」と、2023-24シーズンのチームが向かう方向性を明言した。
一般公開したプレシーズンゲーム3試合は、いずれも下位カテゴリーの相手に対して1勝2敗。多少の不安を抱えながら10月7・8日に開幕の日を迎えたが、ホームのおおきにアリーナ舞洲で富山グラウジーズに連勝と好発進。10月7日のゲームでは竹内が通算6人目となる個人通算4000ディフェンスリバウンドを、鈴木が個人通算500試合出場を達成した。
連勝を飾った試合後に、キャプテンの竹内は「プレシーズンゲームでファン・ブースターのみなさんを不安にさせる内容が続いてしまっていたので、開幕2連勝できたことに満足しています。この結果が自信になりますし、自分たちが進む方向が見えました。今後もゲームを通じて成長していきたいですし、そのためにはいかに自分たちのバスケができるかが重要だと考えています」と安堵した表情で語った。
開幕7連勝、のちに10連敗
激しい浮沈はその後も続く
これを皮切りに7連勝と、ロケットスタートに成功する。ところが一転して、11月5日の琉球戦から10連敗。その多くの試合で、ターンオーバーが致命傷になっていた。絶対的エースであったニュービル、帰化選手としてアドバンテージになっていたブラウンら中心選手が退団した影響はオフェンス面だけではなく、連携面に表れてしまっていたのだ。12月17日の秋田戦に勝利して、ようやく長いトンネルを抜ける。久しぶりの勝利に、指揮官は満足気に語った。
「連敗を止められて、率直にうれしく思います。2P、3Pとも成功率は決していい数字ではありませんが、それでも勝ち切れたので良かった。最近の課題であったターンオーバーを今日は7にまで減らせましたし、アシストも18ありました。体調不良の者やケガ人がいるなかで全員で戦って勝利できて、とても満足しています」
しかし年が明けると、またも勝ち星から見放される。12月末から始まった連敗は5にまで伸び、1月21日にホームで横浜ビー・コルセアーズに勝って一度は連敗を止めたが、次戦から今度は6連敗。シーズンの折り返しを過ぎた2月末の時点で14勝25敗と、大きく借金が膨らんだ。課題であるターンオーバーの問題を改善し切れず、また全員で連動して行うことを約束事としていたディフェンスも、徹底し切れないでいた。この間の1月17日に、大阪産業大のPG髙木拓海が特別指定選手として加入している。
韓国の至宝が電撃加入
苦しむチームに救世主が現れる
後半戦に入っても苦戦が続いていたチームに、大きな新戦力が加わった。NBA挑戦を見据えてオーストラリアのNBLでプレーしていた、韓国人のイ・ヒョンジュンの獲得を3月19日に発表したのだ。身長201cmの大型スコアラーで、韓国の至宝と注目を集める存在。所属していたNBLのクラブが3月中旬にシーズンを終えたことで、電撃加入が叶った。帰化選手、アジア特別枠の選手が不在だったエヴェッサにとって、救世主となることが期待された。ヒョンジュンは3月20日の琉球戦に、スターターで初出場。79-88でチームは敗れたが、ロングの28得点に次ぐ24得点をあげて強いインパクトを放った。彼の存在に引っ張られるかのように、チームは次戦の信州ブレイブウォリアーズ戦から5連勝を達成する。しかし4月は彼が20得点以上をあげても勝てず、3連敗を含む3勝7敗。7敗したうち3試合で90失点以上を喫し、シーズンの閉幕が近付いてもディフェンスの問題は解決しないでいた。
フロントのトピックスとして、3月31日にbjリーグ時代にエヴェッサでプロデビューし、通算12シーズンにわたってプレーした今野翔太がゼネラルマネージャー(GM)に就任した。また4月13日に開催した京都戦で、Bプレミアの参入条件である平均入場者数4000名以上を達成。売上高基準は充足の見込みであり、参入条件は残すところ「アリーナを保持していること」のみになった。
シーズン後にフィッシャーHCが退任
翌季に迎える20周年は新体制で臨む
ジェットコースターのように激しく上下したシーズンは、終わってみると25勝35敗・勝率.417。順位は西地区8チーム中7位に終わった。シーズン終了後に、フィッシャーHCの退任を発表。今野GMはこう、惜別の言葉を贈った。「大阪エヴェッサで2シーズンの間、チームを率いてくれたマティアス・フィッシャーHCが、契約満了にともない退任となります。試合中はつねに熱く指揮を執ってくださり、デザインされたセットプレーの引き出しも非常に多く、たくさんの良いハイライトを残していただきました。また、オフコートではとても思いやりがあり、人としても素晴らしいコーチでした。たくさんの山や谷がありましたが、いつもポジティブに大阪エヴェッサを支えてくださり、本当にありがとうございました」
クラブ創設20周年となる翌季は新たなHCのもと、体制を一新して迎えることになった。
(文/カワサキマサシ)