地元のチームへの移籍でバスケ人生が変わった 在籍5シーズン目、チームの勝利にかける強い思い ──#31木下誠

#31木下誠がプロとしてのキャリアをスタートさせたのは名古屋だった。大阪学院大4年次の2019年にダイヤモンドドルフィンズに特別指定選手として加入し、卒業した翌シーズンからプロ契約に移行。ルーキーシーズンは34試合に出場し、1試合平均12分01秒に起用されてと、新人としてはまずまずの成績だった。しかしそれが翌2020-21シーズンは同7分26秒と、およそ半減。今後の自分の在り方を考えていたところに、生まれ育った街のクラブからオファーが届いた。当時の天日謙作ヘッドコーチ(HC)が獲得を熱望していると聞いて、移籍することに迷いはなかった。この決断が、彼のその後を大きく変えることになる。
「名古屋からエヴェッサに移籍してきたときに、これで自分のバスケ人生が変わるかもと思っていました。地元なので家族や友だちもいますし、プレーを見せて恩返ししないといけない。そういう覚悟で、エヴェッサに来ました。僕のことを高校、大学と見てくれていた天日さんがHCだったのも、大きな要素でしたね」

天日HCは木下を積極的に起用し、エヴェッサに加入した2021-22シーズンの彼のプレータイムは1試合平均22分51秒と、前季の3倍近くにまで増加。このシーズンに飛躍を遂げたことが、今につながる自身の地位を築くことになった。なぜそのように、大きくステップアップを果たすことができたのだろうか。
「チームに加わった当初は、とにかく必死でしたね。結果を残さないといけない。その思いが、先走っていたのもありましたけど(苦笑)。シーズン序盤はなかなか噛み合わない時期もあったので、バイウィークの期間にあらためて自分を見つめ直したんです。プレーの映像もめちゃめちゃみましたし、自分のプレーのいいところと悪いところを、いろんな人に聞いたりもしていました。そうして辿り着いたのは、そのころは良くも悪くもいろんなプレーができしまうので、これと言った強みがないということでした」
いろんなプレーができる。それは彼のプレースタイルの基本にあるもので、今も変わっていない。当時と今で違うのは、考え方の部分。
「満遍なくいろんなことができるのは、自分の武器です。でもHCによって、求められるものが違ったりします。だったら求められていることを中心にやりながら、ほかの部分も少しずつプラスに変えていけるようにしよう。そういう考え方にしてから、良くなっていきましたね」


複数をこなせる彼のプレーの、ひとつひとつの平均値は高い。それを仮に70点とすると、そのなかから80点や90点と強みを強調していくことに力を注いだ。そのひとつが、得点を獲ること。勝負どころで射貫く3Pシュート、華麗に相手を抜き去るドライブに年々磨きをかけ、チーム内で自らの存在を確立した。
「今もチーム練習が終わった後に重点的にワークアウトしているのは、ドライブからのレイアップと3Pシュート。そうしていることが、試合に出ているんだと思います。リングにアタックして味方をフリーにするのも僕の役割ですし、最終的にボールが自分に回ってくることもある。そのときに、シュートを決めるんだという意識でプレーしています」
一方で得意ではなかった守備の部分も、コート全面で相手に高い圧力をかけることを求める藤田弘輝HCのスタイルに身を置いてからは、取り組みや考え方が変化してきた。
「得意じゃないと言っていられるレベルではないですし、やらないといけない意識でやれば、ディフェンスもどうにかなるかなという……(微笑)。ディフェンスに関して今は意識をより高くして、自分がやられてしまうとチームが崩れていくという気持ちを持って、取り組んでいます。藤田HCの1季目だった昨シーズンはアジャストに少し時間がかかりましたが、ヘルプのポジションだったりいろんなことを学びました。今季は自分のなかにあるベースに、チームのやり方だったりをプラスしてできているので、ディフェンスも良くなってきていると思います」

ディフェンスへの意識を高めたことは、彼の特徴であるオフェンスにも良い波及効果をもたらした。
「オフェンスでシュートを外したりしても、気持ちを切り替えてディフェンスで守れば、いい悪いの話ではないですが、プラスマイナスがゼロになるじゃないですか。だからそういった面で、オフェンスでもこれまでより思いきったプレーができるようになってきていますね」


今季はエヴェッサ在籍5シーズン目。シーズン中の来年3月には、29歳になる。経験を重ね、選手として脂ののったもっともいい時期にある。
「名古屋Dにいたころは、なにも考えずめちゃめちゃアグレッシブにやっていましたね。あれからいろんなことを経験してきたなかでバスケに対する考え方が加わって、今のプレースタイルになってるのかなと思います。昔は若いんだからガムシャラにハッスルしようと、ただただ必死にやっていて余裕がありませんした。今も必死にやっていることは変わりませんが、必死のなかにも楽しさがあるなと感じられるようになったんです。必死にやるからこそシュートを決めたら嬉しいですし、ディフェンスで相手を止められたときもそう。そういう少しずつを積み重ねていって、やっぱりバスケっていいなとなっていますね。これからもHCや周りの選手から良いものを吸収して、成長し続けていきたいです」
年齢的にも、チーム内で中堅の立ち位置になった。率先して周りを引っ張っていくタイプではないが、チームの軸のひとりである自覚は確かにある。シーズンはまだ2/3近く残っている。これからのし上がっていくために、チーム全体でなにをすべきだと考えているのか。
「やはり自分たちのバスケを信じて、貫き通すことですね。信じたバスケを全員が全力でやれば、自ずと結果はついてくると思っています。自分たちがやるべきことを出し尽くして勝てなかったのなら、負けを受け入れられますし、次に勝つためにどうすればいいのか前向きに捉えられる。今のチームはコーチ陣を含めて、全員が同じ方向を向いています。だれとだれが交替しても、同じようなチームプレーができるのは強み。勝つも負けるも、最後は戦術より、自分たちの気持ちのところだと思います」
普段は穏やかな口調で受け答えする彼だが、最後の言葉にはいつもにはない力強さが込められていた。これが地元のチームに身を捧げてプレーする背番号31の、今季にかける決意であろう。

取材/文 カワサキマサシ


























































